前回にお話しした産後に体型が崩れてしまう原因の「産後の骨格・骨盤編」に続き、今回は「産後の筋肉編」を紹介します。
骨盤底筋群はどんな筋肉?
人の体にはおよそ600もの筋肉があるといわれています。これらの筋肉が協調してさまざまな運動を行っているのですが、出産に伴い、全ての筋肉に等しく負担がかかるわけではありません。
妊娠から出産の際に一番負担のかかる筋肉が「骨盤底筋群」というのは、おそらく 多くの専門家の一致する意見だと思います。
女性の骨盤の下側には出産しやすいように、直径10cmほどの大きな空間があります。これを骨盤下口といいます。こんなに大きな穴が開いてるのですから、そのままにしておくと、内臓が下に落ちてしまうことになります。
そのため、骨盤底筋群という筋肉で、その空間をにフタをしているのです。そうすることで、骨盤内臓器(膀胱、子宮、直腸)などが落ちないように下から支えています。
骨盤底筋群は流産を予防
大きくなったお腹を人はどのように支えているのか、考えてみたいと思います。四足動物のころ、産道は後ろ向きにあり、赤ちゃんはお腹の筋肉で支えられていました。
骨盤底筋群 の本来の作用は2つあります。
①左右の寛骨という骨盤を形成する骨を結びつけるため
②そして、尿や便を垂れ流しにしないため発達した
それというのも、自分の匂いを垂れ流しにする天敵のいる野生動物にとって致命的な行為だからです。ところが、二足歩行に進化すると、産道は立った時に下向きになってしまい、もう一つの作用が加えられることになりました。
それが流産予防作用です。産道が下を向いているため、流産しやすいというのは進化した人の体のデメリットの一つです。それをカバーするために、骨盤底筋群は5から10cmという非常に厚みを持った筋肉に進化し、少しでも流産しにくくなるようになったのです。
出産で骨盤底筋は伸びて傷つく
骨盤底筋群は、普段は骨盤内臓器を下に落とさないように働いてくれています。妊娠中はこれにプラスして、赤ちゃんや肥大した子宮など5キロ 近いものを支えることになりますので、さらに負担が大きくなります。
その上、赤ちゃんを収めるために、骨盤が広がっていく関係で、この筋肉は 引き伸ばされて、出産で赤ちゃんが産道を通過する際に部分的に裂けてしまいます。
産後は尿漏れ以外にもお悩みが
先ほどお話ししたように、この骨盤底筋群という筋肉は、普段は尿や便が漏れないようにするために働く筋肉です。その筋肉が裂けて傷ついてしまうのですから、妊娠中から出産後は多くの女性が、尿漏れや痔、そしておなら漏れなどといった症状で悩むことになります。
あまり 耳にしたことはないと思いますが、おなら漏れというのは、自分が気づかないうちにおならが漏れてしまうことです。一般的には過敏性腸症候群の人などに見られますが、産後の女性の場合は、普通に座っているだけなのに気をつけて、肛門を閉めるように意識しているのにも関わらず、おならの匂いがしてくることがあります。
それは、おならが漏れ出ないようにしてくる外肛門括約筋(骨盤底筋群を形成する筋肉の一つ)が緩んでしまい、その結果、おならが漏れて出てしまうからです。あまりおなら漏れについて、雑誌やテレビなどの特集で取り上げられることがないので、悩んでる人は少ないように思われるかもしれませんが、実際には多くの女性が悩んでいます。
緩みが少し進行してしまうと、お腹がゆるい時は、くしゃみをするだけで便が出てしまうこともあります。骨盤底筋の損傷は、出産から時間が経ちすぎてしまうと、頑張って回復を試みても改善しないことが分かっています。ですから、産後の なるべく早いうちからしっかりと回復する必要があります。
妊娠中は腹直筋が邪魔になる
お腹の前面にある筋肉のことを「腹直筋」といいます。この筋肉は一般には、お辞儀をするときに使うといいますが、他にも内臓を保護して、正しい位置に収めるといった重要な働きをしています。
ところが、妊娠をして子宮がどんどん大きくなると、腹直筋は邪魔な存在となります。なぜかといえば、腹直筋は子宮が大きくなる時に必要な空間を作らせないようにしてしまうからです。
腹直筋離開って何でしょう?
妊娠して邪魔になった腹直筋は左右に広がっていくことになります。これを「腹直筋離開」といいます。
このとき、腹直筋は単純に左右に引き伸ばされるのではなく、左右の腹直筋の間にある「白線」と呼ばれる部分がジャバラのように広がり、お腹の中から赤ちゃんの居場所を作ろうとするのです。腹直筋離開は珍しいことではなく、妊娠した女性の9割以上に起こることでもありますから、正しくケアさえすれば心配するようなことはありません。
ところが間違った産後ケアをしたり、無理をしたりすると腹直筋離開は回復するどころか、ますますひどくなることも少なくありません。例えば、バンドでお腹を固定しようとすると、赤ちゃんを収めるスペースが十分に確保しにくくなります。
また、回復期に同じような運動をするとかえって筋力が低下してしまい、腹直筋離開が改善しないこともあります。
腹直筋離開を確認するには?
白線の幅はお腹の部位によって異なりますが、およそ2から7ミリです。腹直筋離開がなければ、白線は弾力のある硬さ なのですが、出産後この線を触って、指が弾力のある硬さを感じないときは、腹直筋に離開が回復しておらず、お腹のケアが十分ではない証拠です。
3ヶ月経ってもお腹がポコッと出ている人は、要注意な状態だと思って良いでしょう。
腹直筋離開の回復はいつまでに
腹直筋離開が回復できる期間は長くはありません。できるだけ。産後の早い時期からの正しいケアでお腹のたるみを解消して欲しいと思います。
妊娠すると腹横筋がたるむ
腹横筋は脇腹にある筋肉です。この筋肉は「骨盤を立てる」「姿勢を保ったり」し、腰にかかる負担を減らしたりしてくれるので「天然のコルセット」と呼ばれることもあります。
腹横筋は普段からあまり使われる筋肉ではなく、妊娠前からたるんでる人が少なくないのですが、妊娠してお腹が大きくなるにつれてたるんだ状態で薄くなってきます。
妊娠すると姿勢も変わる
お腹の赤ちゃんが大きくなり、お腹が前に出てくるようになると、腰椎の前腕が大きくなっていきます。そのバランスをとるために、胸椎は後湾が強くなる「スウェイバック姿勢」と呼ばれる姿勢をとるようになります。
この姿勢は腹直筋と腹横筋を共に弱くさせることになります。特に脇腹だと、下がってしまった肋骨の下端と骨盤の上端との隙間は狭くなります。それが ウエストのくびれをなくす原因にもなります。
ウエストにくびれをを作る方法
ウエストにくびれを作るには、この隙間は少なくとも5cmは欲しいのですが、産後のスウェイバック姿勢では、腹横筋が弛んだままなので、この隙間は半分程度しか確保できなくなってしまいます。
そうなると、いくらくびれを作ろうと努力をしてもなかなか効果を得ることができなくなってしまいます。この筋肉は冒頭で紹介したように、骨盤を立てるのに重要ですが、産後の女性はお尻を突き出し骨盤を寝かせる立ち方を長く行っている関係で、骨盤を立てる運動ができにくくなっています。
出産後にこの腹横筋を使うようにしないと、骨盤を立てるのがどんどん難しくなり、脇腹のたるみや大きなお尻といった見た目の問題だけでなく、腰痛や背中の痛み、そして恥骨痛や股関節の痛みを引き起こす原因となるのです。
中臀筋が弱るとお尻が垂れる
ヒップアップのための筋肉ということで女性誌によく取り上げられる筋肉の一つが、臀筋群の中の中臀筋です。この筋肉はお尻全体を覆う感じに付着しているのですが、妊娠から出産にかけて大きくつき方が変わってしまう筋肉の一つでもあります。
妊娠するとスゥエイバック姿勢になると先ほど話しましたが、このときはつま先は少し外側に向き足は軽く開き、妊婦特有の立ち方になります。この妊婦特有の立ち方は、中臀筋を下の方に引っ張る状態になります。いい換えるとお尻が垂れた状態になるということです。
よく出産後のお尻の形はへらべったく横に広がってしまうといいますが、これは 妊婦特有の立ち方によって作られているのです。
キレイなお尻になる方法とは
それでは、お尻を元の丸みのある上がった形に戻すためにはどうすれば いいのでしょうか?立ち方を直すことが先決ですが、筋肉の使い方の再教育も大切です。
これをおこなわないと、いくら運動をしてもやせるだけで、ヒップラインは崩れたままとなります。それだけではありません。この中臀筋は片方の足に体重がかかってきてるときに、体を支える働きがあります。
この筋肉が弱くなると、歩く時に骨盤が左右に振れるので、股関節や恥骨、仙腸関節に大きな負担となります。産後半年以上経っても「歩いてるだけで恥骨や骨盤が痛い」と訴える人の多くは、この中臀筋が弱く、そして使い方がおかしくなっているのです。
もちろん、やみくもに中臀筋の強化をしても努力しただけの成果は上がりません。効率よく中臀筋が使えるようになるためには、中臀筋の再教育が必要です。