前鋸筋は胸筋の協力筋であり、菱形筋の拮抗筋です。
胸部側面及び、腕の下側に小胸筋と同じパターンの痛みを起こすことがあり、これらの痛みは前鋸筋に沿って治療するのが最も容易です。
今回は、その脇腹の筋肉、「前鋸筋」の解剖学、機能と役割や位置、起始部と停止部、痛みをとるマッサージ方法、ほぐし方、前鋸筋を鍛える筋トレやストレッチなども解説します。
脇腹の筋肉「前鋸筋」を鍛える筋トレやストレッチ
前鋸筋は野球のボールを投げたり、バスケットボールをシュートしたり、アメリカンフットボールでタックルをする時に、肩甲骨をわずかに上方回旋させながら外転させる働きをします。
特に投球時は、前鋸筋は大胸筋と一緒に働きます。前鋸筋は腕立て伏せの特に、肘を伸ばす最後の5°から10°のところでよく使われます。
前鋸筋を鍛える筋トレ方法
ベンチプレスやオーバーヘッドプレスはこの筋肉を鍛えるにはとても良いエクササイズです。
肩甲骨が後方に突き出る翼状肩甲骨は前鋸筋の機能が弱っている証拠です。
今回はダンベルの重みで胸郭を広げ、強化するプルオーバーを 紹介します。
1:水平な台の上で仰向けになりダンベルを上げます
・フラットベンチなど水平な台の上で仰向けになり、両腕を伸ばしてダンベルを胸の上でセットします。
2:両腕を伸ばしたまま、ダンベルを下ろして胸郭を広げます。
・ダンベルの重さを支えながら、ゆっくりダンベルを下ろして胸郭を広げます。
両腕を伸ばしたまま下ろすことで、前鋸筋以外に、胸郭や大胸筋もしっかり伸ばされて強化されます。
3:両腕を伸ばしたまま胸の上の位置までダンベルを上げます。
・②の状態から腕を頭上から振り下ろす動きで、両腕を伸ばしたまま、ダンベルを胸の上の位置まで持ち上げて戻します。
前鋸筋、大胸筋や上腕三頭筋にも負荷がかかり背中の広背筋大円筋にも効果のある筋トレ方法です。
●前鋸筋を伸ばすストレッチ方法
前鋸筋のストレッチ方法は部屋にの角に向かい立ち、それぞれの手を肩の高さに上げ、2つの壁につけてストレッチします。
鼻を壁のコーナーにつけるように、上体を前傾させるにしたがい、肩甲骨が内転位に持っていかれ、前鋸筋がストレッチされます(ウォール プッシュアップ)。
今回は、体幹上部を反らせて前鋸筋や胸郭周りを伸ばすストレッチ方法を紹介します。
脊柱の胸椎部分を反らせる動きで、前鋸筋や胸郭周りを伸ばすストレッチ方法です。
胸郭に付着する筋肉だけじゃなく胸郭の可動域の制限になりやすい胸郭周りの関節周辺組織も一緒に伸ばすこともできます。
1:テーブルからやや離れて立ち両手を置きます。
テーブルや台からやや離れて立ち、足を肩幅程度に開きます。
股関節から上体を倒し、腕を伸ばしてテーブルに両手を置きます。手の幅は狭めにして、背筋をまっすぐに伸ばします。
2:テーブルに体重をかけ背中を反らせます。
テーブルに体重をかけながら背中を大きく反らせましょう。
胸を張り、体幹上部を反らせる意識で行うと、前鋸筋や胸郭周りがしっかり伸び、ストレッチされます。
NG POINT:
・テーブルに近づきすぎて、前鋸筋や胸郭を伸ばせないなります。
立つ位置がテーブルに近すぎると肘が曲がり、体重をかけて体幹上部に反らせる動きが、やりにくくなるのでNGです。テーブルから1メートルほど離れて立つのが目安です。
・頭が下がっているのもNGです。
頭が下がってると背中を反らせにくくなり、腕を後方に振る肩関節中心の動きになりやすいのでNGです。
体が硬い人向け前鋸筋のストレッチ方法。
壁に手をついて前鋸筋や胸郭周りを伸ばします。
体が硬い人は、両手を高い位置についた方が胸郭周りを伸ばしやすくなります。
壁に両手をついて行うストレッチ方法はテーブルで行うストレッチ方法とは異なり、手を付く位置を自分に合った高さに調節できます。
前鋸筋はどんな筋肉なのでしょう?
前鋸筋は肩甲骨の強力な外転筋であり、その下部線維は肩甲骨の上方回旋に関わる機能、作用があります。
前鋸筋の起始部は停止部より前方にあるため、収縮すると肩甲骨を前方へ引っ張り、肩甲骨が外転します。
また下部線維が収縮すると肩甲骨内側縁下方を前方へ引っ張ります。これによって肩甲骨が上方回旋して関節窩が上方へ向きます。
名前の由来
前鋸筋の「鋸」は肩甲骨への付着部が、ノコギリのようにギザギザしている様子を表し、前鋸筋は後鋸筋よりも「前方」にあるため、この名前が付いています。
英語の書き方
『Serratus Anterior』・serra:ラテン語の「鋸」・anterior:ラテン語の「前方」を意味しています。
「位置」と「起始部、停止部」は
位置:前鋸筋は8本の肋骨にわたって広い起始部を持ち、肋骨上を走行しながら肩甲骨の停止部に向かって徐々に狭くなります。
前鋸筋の大部分は広背筋、肩甲骨、そして大胸筋の深層部にありますが、胸郭外側の中央部において三角形を呈して表層に観察できます。
起始部:前鋸筋は第1から8肋骨の外側面、もしくは第9肋骨の外側。
停止部:肩甲骨の上角と下角、ならびにその間の肩甲骨内側縁。
肩甲骨と肋骨の間、肩甲胸部関節は骨と骨による関節ではないため、前鋸筋が肩甲骨を一定の位置に保つ大きな役割を担っています。
作用や機能を紹介
・肩甲骨の外転、下制、上方回旋・停止部が固定されてる時に。強制的な呼気の補助
前鋸筋は体に対していくつかの機能を持っています。第一に腕で 荷重する時に、小胸筋と共に肩甲骨を胸腔に固定します。
この機能は、押す動作を含む活動時にも使われます。 前鋸筋は肩甲下筋の深層に位置し、菱形筋と同様に肩甲骨の内側に付着しています。
前鋸筋は僧帽筋と協調して関節窩を操縦し、通常での運動を最大可動域で行わせます。この機能は手を届かせる、投げる、押すなどの動作時の適切な肩甲上腕リズムに不可欠です。肩甲上腕リズムとは、肩甲骨胸郭関節と肩甲上腕関節の間で起こる共同作業です。
最後に前鋸筋は横隔膜、外肋間筋、小胸筋、斜角筋や他の胸腔に付着する筋とともに強制的な呼吸を可能にします。例えば運動にともない呼吸が苦しくなった時、肩甲骨内側縁が胸部に固定されていれば、呼吸を増幅させることができます。前鋸筋の大きな特徴とは?
前鋸筋には肩甲骨の内側縁を肋骨に近づけて、維持し続ける役割があります。
マッサージのための機能解剖学
前鋸筋の触診方法を解説
前鋸筋の触診方法は、胸郭と肩甲骨の間の体の側面に、四肢を平らに押し当て上下に動かします。
さらに胸筋まで触診にしましょう。筋束の構造は収束状で筋線維の走行は斜めです。
肢位:患者さん側臥位で寝てもらい、腕は前に置きます。
1:患者さんの後方に立ち、肩甲骨の最も外側部を探します
2:肩甲骨の内側縁から胸郭に向かい、前下方に指で触診します。
3:各肋骨の停止部に向かい、それぞれの筋腹をおいます。
4:患者さんの肩甲骨外転に対して、負荷をかけながら適切な位置を確認します。
前鋸筋の整体、マッサージやほぐし方
胸郭外側に沿って直接圧迫したり、強擦したりすることは前鋸筋の触診やマッサージとして良い方法です。
背臥位で胸郭外側の肋骨上と肋骨の間を90°の角度で圧迫します。日常の肩甲骨の外転はよく使われるので、全身マッサージの時も、この前鋸筋をマッサージすることは効果的です。
前鋸筋のほぐし方・ストリッピング
1:患者さんには、ほぐす側の方を上に側臥位をとってもらいます。
2:一方の手を患者さんの胸郭側面に置き、拇指第9肋骨に、他の指を肩甲骨に当てます。
3:深く押圧しながら拇指を肩甲骨に向かって下角に達成するまで弧を描いて滑らせます。
4:拇指をもう一つ上の肋骨に移動し、同じプロセスを繰り返し、毎回肩甲骨の内側への少し上で終わらせます。
腋窩の後側境界を形成する筋肉の束に達成したら、拇指を肩甲骨の筋肉の束の下へ滑らせます。
前鋸筋のその他の詳細
前鋸筋が硬い、弱くなると?
・硬くなると(短縮):肩が前方に出てきます。(肩甲骨の外転が原因です)肩甲骨の内転と下方回旋が困難になります。
・弱くなると(伸長):肩甲骨の内側縁が、肋骨近くに維持できずに浮き上がるので、「翼状肩甲骨」を呈します。
共働筋
・肩甲骨の外転:小胸筋
・肩甲骨の上方回旋:僧帽筋上部、僧帽筋下部
拮抗筋
・肩甲骨の内転:菱形筋、僧帽筋中部
・肩甲骨の下方回旋:肩甲挙筋、菱形筋、小胸筋
関連痛領域
・胸郭中央あたりの胸部側面、腕の尺側を下に小指と薬指まで、肩甲骨の下角内側
その他の検査対象筋
・広背筋
・大円筋
・小胸筋
・菱形筋
神経支配と血管供給
・神経:長胸神経
・血管:外側胸動脈、胸背動脈