下後鋸筋は上後鋸筋と混在しやすいですが、筋肉の機能や役割、位置や起始部、停止部も全く違いますので、各々の違いをよく理解しましょう。
下後鋸筋は体幹の回旋と伸展を補助し、呼吸を補助します。トリガーポイントは、一般にこの筋肉上を放射状に広がります。
今回はその背中と腰の境目の筋肉、「下後鋸筋」の解剖学、機能と役割や位置、起始部と停止部、痛みをとるマッサージ方法、ほぐし方も解説します。
下後鋸筋はどんな筋肉?その概要は
下後鋸筋は広背筋の深層、脊柱起立筋群の表層にあります。下後鋸筋は胸椎のT11から、腰椎のL2の棘突起と、肋骨の第9肋骨から第12肋骨の後面をつなげています。
ヴィジュアル機能解剖学 南江堂
下後鋸筋の上に向かって、角度の付いた筋繊維は、この下後鋸筋が肋骨を下制することを可能にしています。呼吸時のこの下後鋸筋の役割については、議論の余地があります。
しかし、下後鋸筋によって、下部の肋骨を下制することが強制呼吸運動を助けています。というのが概ね一致した考えです。
名前の由来
下後鋸筋の「下」は上後鋸筋に対して、下方にあることを示し、「後」は前鋸筋に対して下後鋸筋が後方にあることを示しています。
また「鋸」はギザギザしたノコギリのような形状を表しています。
英語の書き方
『Serratus Posterior Inferior』・serra:ラテン語の「鋸」・posterior:ラテン語の「後方」・inferior:ラテン語の「下方」を意味しています。
下後鋸筋の位置と起始部と停止部
下後鋸筋の位置
下後鋸筋は腰部の中央にある、中間層の筋肉です。広背筋の深層で、脊柱起立筋の淺層にあります。
起始部はどこから?
下後鋸筋は胸椎のT11,T12と腰椎のL1~L3の棘突起、広背筋
停止部はどこまで?
第9~第12肋骨の下縁(肋骨後面で肋骨角付近)
作用、機能の詳細
下後鋸筋は第9から第12肋骨を引きさげ、強制呼気を補助しています。
下後鋸筋の起始部が停止部よりも下方にあるので、肋骨を下方に引き下げることで、第9から第12肋骨の下制が起きます。
また、下後鋸筋が吸気時に、下位肋骨を安定させる役割を持つという、いくつかの報告があります。下後鋸筋がアイソメトリック収縮することで、横隔膜が下位肋骨を上方に引き上げるのを防ぐので、下位肋骨が安定します。
このように下位肋骨が安定することで、横隔膜の収縮効率が高まります。大きな特徴とは?
下後鋸筋は呼吸筋としてよりも、体幹の同側への回旋と脊柱の伸展に関与する筋肉として重要であると示唆するいくつかの報告があります。
マッサージのための機能解剖学
触診方法を解説
下後鋸筋の触診は、トリガーポイントが広がっていなければ、下後鋸筋を触診することは可能ですが、なかなか認識できません。
筋肉の束の構造は平行上で筋線維の走行は斜めです。
肢位:患者さんには腹臥位をとってもらいます。
1:患者さんの横に立ち、脊柱の方を向きます。指先で胸椎11番から腰椎2番の棘突起を見つけます。
2:指先を外側方向に、肋骨に向かってわずか上方に動かします。
3:下部肋骨の表面に沿って、上方に走行する下後鋸筋付近の筋線維を探します。
4:適切な位置を確認するため、患者さんははヘビのように「シューシュー」と息を吐きます。※これは下後鋸筋が呼吸と関係している筋肉なので吸気により確認しやすくなります。
下鋸筋の整体、ほぐし方
下後鋸筋のマッサージは第9から第12肋骨をよく理解し、軽擦方でマッサージしてほぐすのが一般的です。
今回は下記のような下後鋸筋のマッサージ方法、ほぐし方を紹介します。
下後鋸筋のほぐし方【ストリッピング法】
1:患者さんは腹臥位をとってもらい、施術者は患者さんの治療する側と反対側の腰の位置に立ちます。
2:重ねた四指を上部腰椎の上に置きます。
3:筋肉を深く押圧し、指先を下位2つの肋骨上を斜めに(下外方に)移動させて、同じプロセスを繰り返します。
4:四指の代わりに、拇指、肘、または指関節を使用することもできますので、是非試してみましょう。
下後鋸筋のほぐし方【圧迫法】
1:拇指、または重ねた子四指によって、患者さんが鋭い放散痛を訴えるまで筋肉上を触診します。
2:そのポイントを拇指、または肘で痛みが和らぐまで圧迫します。
下後鋸筋のその他の詳細
硬くなると、弱くなるとでの症状
・硬くなると(短縮):
吸気をしっかりと行うことが制限されます。
・弱くなると(伸長):肋骨を引き上げる機能が低下します。
共働筋
拮抗筋
下後鋸筋の関連痛領域
関連痛は筋肉上を放射状に広がります。
その他の検査対象筋
下後鋸筋の神経支配と血管供給
・支配神経:肋間神経
・血管供給:肋間動脈