今回は斜角筋について解説していきます。斜角筋は「前斜角筋」「中斜角筋」「後斜角筋」に分けられます。
首の動きに関する筋肉は2つのグループに分けられます。1つ目のグループは、首の屈曲と反対側の回旋に働く作用があります。
これらの筋肉は首の前外側にあります。もう一方のグループは、頚の伸展と同側への回旋に働く作用があり、首の後方にあります。まずはじめに、前外側にある「斜角筋」から説明していきましょう。
斜角筋はどんな筋肉?その概要
斜角筋は関連痛を起こしやすい筋肉として知られています。
斜角筋の本来の機能は比較的簡単で、頭を側方へ傾ける機能です。胸郭を引き上げたり、逆説的呼吸における不適切な呼吸補助筋として、われわれは斜角筋を用いがちです。
その結果、斜角筋は多大な緊張を強いられます。斜角筋に問題を抱えている人は非常に多いです。胸郭出口症候群と言われる症状に対しては、斜角筋は大きく関与しています。
胸郭出口に含まれるのは斜角筋と第1肋骨または、前斜角筋と中斜角筋との間の通路部分です。腕へと流れていく途中、腋窩動脈と腕神経叢は前斜角筋、中斜角筋との間を通り、次に第1肋骨と鎖骨との間を通ります。
この通り道のどこかに、前斜角筋と中斜角筋の硬結が存在すると、血管や神経が圧迫されてしまいます。 斜角筋による関連痛と、腕神経叢が圧迫されてしまったことによる痛みとの識別判断は難しい場合があります。
【注意】最小斜角筋が全ての人が有する筋肉ではないし、その現れ方もほとんどの場合片側のみで、トリガーポイントも存在しますが、手技で最小斜角筋のトリガーポイントだけを探し出すのは難しいので、前斜角筋の一部として治療されます。
名前の由来
斜角筋は、平行でない、斜めに走っている、段差のあるといったような筋肉の形状や走行の特徴が斜角筋の名前の由来です。
英語の書き方
『Scalenes』・Scalenes:ラテン語の「平行でない」を意味しています。
前中後最小斜角筋の位置
位置:斜角筋は頚部の外側にあります。前斜角筋の上部は、胸鎖乳突筋の深層にありますが、下部は表層で胸鎖乳突筋の後方にあります。
中斜角筋は、前斜角筋のすぐ外側にあります。後斜角筋は非常に小さい筋肉で、中斜角筋の外側で肩甲挙筋との間にあります。
各斜角筋の起始停止
前斜角筋の起始停止
起始部:第3頚椎から第6頚椎の横突起
停止部:第1肋骨前面(起始部よりも前方)
中斜角筋の起始停止
起始部:第2頚椎から第7頚椎の横突起
停止部:第1肋骨(頚椎の横突起につく起始部よりも明らかに下方です)
後斜角筋の起始停止
起始部:第4頚椎から第6頚椎の横突起
停止部:第2肋骨前面(頚椎の横突起につく起始部よりも明らかに下方です)
最小斜角筋の起始停止
最小斜角筋は全ての人が有している筋肉ではありません
起始部:第7頚椎の横突起の前結節
停止部:胸膜頂と、第1肋骨の内縁
斜角筋の作用は
・両側の収縮時は頚部の屈曲の作用。
・片側のみの収縮時は頚部の屈曲と反対側へのわずかな回旋の作用。
・第1肋骨、第2肋骨の挙上により吸気の補助としても作用しています。
役割、作用を解説
前斜角筋が頚椎横突起の起始部を、第1肋骨の停止に向かって前方に引きつけることで頚部の反対側へのわずかな回旋が起こります。すなわち、頚部の側面を前方へ引きつけることにより、頚部には反対側回旋が起こります。
また、頚部の外側では3つの斜角筋の起始分はすべて停止部よりも上方にあるので、斜角筋の片側のみの収縮時には頚部外側から下方に引かれ、頚部の同側への側屈が起こります。
さらに、左右の斜角筋が同時に収縮したときは、両側の頚椎横突起が前方に引かれるので頚部の屈曲が起こります。斜角筋は起始部を停止部に向かって引き寄せることによって、頚部の動きを起こすことに注意して下さい。
第1肋骨、第2肋骨の挙上は肋骨の停止よりも、起始部側上方にあるので、第1肋骨、第2肋骨が斜角筋の収縮に伴って持ち上げられることによって起こります。
大きな特徴とは?
斜角筋が「呼吸において重要な役割を果たす」とする報告がいくつかあります。第1肋骨、第2肋骨の挙上という機能が、この主張の理由となっています。
また、この斜角筋は、不必要な頚部の側方への動きを制限することで、頚部の姿勢制御に役立っています。
斜角筋の機能的解剖を紹介
斜角筋は前斜角筋、中斜角筋、後斜角筋の三つの部位で構成されています。そして、あまり知られていませんが、全ての人に存在しませんが、人によっては「最小斜角筋」というものすごく小さな斜角筋も存在しています。
ヴィジュアル機能解剖学 南江堂
斜角筋は頚部の外側に位置しています。上部の僧帽筋の前縁と、胸鎖乳突筋の後縁の間に斜角筋への「窓」があります。これらの大筋群は全て共動して頚部を側屈し、頭部および頚部を安定させています。
さらに、鎖骨下動脈や腕神経叢のような深層構造を防護マウントとなります。斜角筋は第2肋骨の外側、第1肋骨の前方外側に枝分かれして付着しています。
この停止部のばらつきにより、前斜角筋は頭部、頚部を側屈、回旋させ、他の斜角筋は側屈させます。頭部と頚部が固定されている時、斜角筋は吸気運動で第1肋骨と第2肋骨を挙上させます。
この挙上は胸郭の空間を増大させ、肺により多くの空気を流入させます。これはしばしば強制呼吸時に生じる横隔膜は、通常のリラックスした呼吸に関与しています。
強制呼吸は高強度運動時(とても激しい運動時)や喘息のような肺疾患でよく見られます。斜角筋の過剰な拘縮、筋肉肥大、使い過ぎによる外傷構造の不良は、腕神経叢や鎖骨下動脈のように保護されている構造の圧迫を生み出してしまいます。この一般的な疾患は胸郭出口症候群と呼ばれています。
斜角筋のストレッチ方法
首全体の筋肉のストレッチの基本…。
斜角筋の他、胸鎖乳突筋や僧帽筋の上部などもストレッチされます。頭をやや前方に倒せば僧帽筋の上部、やや後方に倒せば胸鎖乳突筋など頚部の筋肉群を効果的にストレッチできます。
ラグビーや格闘技など身体をぶつけ合うスポーツの怪我予防をはじめ、様々な競技に活用して欲しいと思います。肩こりの改善にも効果があります。
そして、斜角筋のストレッチ方法は、頭部と頚椎の最大側屈によりストレッチされます。首を側屈することにより、右側の斜角筋がストレッチされます。右方向への同じ動きによって左側がストレッチされます。
ステップ1:上半身をまっすぐにした姿勢で片手を頭の上に乗せます
ステップ2:腕で頭を真横に傾けますこの時顔は正面を向いたままを意識しましょう
胸鎖乳突筋のストレッチも一緒に行いましょう
斜角筋の筋トレ方法
斜角筋を鍛える筋トレ方法は、自分の手で首に負荷をかけて斜角筋を鍛えましょう。どこでもできる簡単な首を鍛える筋トレ方法ですので、無理なくまめにトレーニングしましょう。
ポイントは手と頭で押し合いながら力を抜かずに動作を完了する事です。力を抜かなければ首をきっちり強化する筋トレ方法になります。
斜角筋の筋トレ方法
手で抑えた側に頭を倒すように首に力を入れながら、それよりも大きな力で反対側に手で頭を押し込んでいきます。その後、手で頭を押し込みながら、ゆっくりと①の姿勢に戻します。
触診方法を解説
僧帽筋の前方にある斜角筋の触診方法は、乳様突起(斜角筋は乳様突起に付着していませんが、識別は可能です)の下部に指を置き、肋骨と胸郭とのそれぞれの付着部へ向けて下へ指を滑らせます。
斜角筋は僧帽筋の縁部の前のくぼみに沿って指を動かします。斜角筋は乳様突起の下部から第1肋骨にかけて触診できることがあります。中斜角筋の触診方法も同様のプロセスで行いましょう。筋肉の束の構造は主に収束状です。
肢位:患者さんに仰向けになってもらいます。
1:患者さんの頭側に座り、僧帽筋と胸鎖乳突筋のある頚椎横突起を指先で見つけます。
2:斜角筋の細いひも状の繊維に沿って尾側に指を動かします。腕神経叢はこの部位に位置しています。(※腕神経叢はこの部位に位置しています。神経損傷や不快感を避けるためにも、ひも状の神経を強く押しすぎないことを注意しましょう)
3:第1肋骨、第2肋骨の付着部に向かって、斜角筋をなぞるよう触診します。
4:適切な位置を確認するために、患者さんが頚部の側屈に対して施術者は負荷を加えます。
斜角筋のほぐし方【5種類】
今回は次のような5種類の斜角筋のほぐし方、マッサージを紹介します。
斜角筋のほぐし方①
1:患者さんには仰向けになってもらいます。
2:施術者は患者さんの頭側に立ちます。一方の、手を頭の下に差し入れて頭を保持します。
3:しっかりと斜角筋の組織に圧をかけながら、筋肉に沿ってゆっくりと拇指を動かします。
できるだけ遠くまで指でマッサージし、鎖骨の後側のくぼみに指が食い込むように指圧します。左右で同じプロセスを繰り返しましょう。
4:次に中斜角筋を探し出して、上記のプロセスを繰り返します。
5:最後に後斜角筋を探し出しましょう。後斜角筋に続いて、僧帽筋の縁部の前のくぼみに、出来るだけ指が食い込むように拇指を動かし、斜角筋をほぐしていきましょう。
6:反対側も同様にマッサージをして斜角筋をほぐしていきましょう。
7:反対側も同様にマッサージして斜角筋をほぐしましょう。
8:上記のほぐし方、マッサージは拇指だけでなくし四指で行なってもいいです。ぜひお試しください。
斜角筋の深部圧迫のほぐし方②
1:患者さんには仰向けになってもらいます。
2:施術者は患者さんの頭側に立つか、患者さんの頭方に座ります。首の付け根にある斜角筋に指先を当てます。
患者さんの反対側の胸部に向かって、斜めに深く圧をかけましょう。筋肉がほぐれたと感じられるまで、これを繰り返していきます。
斜角筋の圧迫のほぐし方③
1:患者さんには仰向けになってもらいます。
2:施術者は患者さんの横か、頭側に立ちます。患者さんの首の付け根に手を置きます。手根を僧帽筋と肩甲挙筋に当てます。僧帽筋上で指を丸めて、首の付け根で斜角筋をつかみます。
3:斜角筋を初めは優しく、徐々に圧を強くかけながら、斜角筋がほぐれたと感じられるまで圧迫しましょう。
斜角筋のほぐし方④
1:患者さんには仰向けになってもらいます。
2:施術者は患者さんの頭側に患者さんの頭の方を向いて立ちます。
3:片方の手で患者さんの頭をしっかりと保持します。もう片方の拇指で、中斜角筋の上部を探し出します。
4:僧帽筋の縁のすぐ前の組織をしっかりと押圧しながら、前斜角筋に沿って拇指を出来る限り遠くまでマッサージしてほぐしていきます。
5:後斜角筋に対しても同様にマッサージしてほぐしていきます。
6:上記のプロセスは指関節を用いてマッサージしてほぐしても良いでしょう。
斜角筋のほぐし方⑤
1:患者さんには採用を取ってもらいます。
2:施術者は患者さんの背後に立ちます。
3:拇指を中斜角筋の停止部に置きます。
4:しっかりと斜角筋の組織に圧をかけながら、筋肉に沿って起始部まで拇指を用い、マッサージしながら斜角筋をほぐしていきましょう。
5:前斜角筋、後斜角筋に対しても同様にマッサージして斜角筋をほぐしていきましょう。
斜角筋のその他の詳細
硬くなる、弱くなるでの症状
・硬くなると(短縮):
片側のみが短縮した場合には、頚部はわずかに反対側に回旋します。
また、反対側への頚部の側屈が制限されます。頚部の側屈筋群の短縮のみによって、患者さんが頚部の側屈位を示すことはあまりありません。
なぜならば、立ち直り反射が筋肉の緊張の不均衡を代償して、両目が水平になるように姿勢を修正するからです。 また両側が短縮した場合には、頚部を完全に伸展することが制限されます。
しかし、日常生活動作が困難になるほどに、頭頚部が屈曲位を示す姿勢を見かけることはほとんどありません。したがって私たちは脊柱や骨盤のアライメントさせることによって、頚部の短縮による影響を代償していると考えられます。
脊柱や骨盤による代償は、これらの部位に痛みを引き起こすことはことがあります。さらに、前斜角筋と中斜角筋の間を腕神経叢が通っているので、前斜角筋、中斜角筋が短縮したり緊張したりすると、腕神経叢が挟みこまれて胸郭出口症候群を引き起こします。
・弱くなると伸長:
斜角筋の機能が低下します。
共働筋
頚部の屈曲、側屈、反対側への回旋・後頭下筋
拮抗筋
神経支配
頚神経(C6~C8)
血管供給
上行頸動脈、頚横動脈
斜角筋の関連痛領域
・肩上部、肩甲骨内縁下方
・上前胸郭上方
・上腕前部下方
・前腕橈骨の下半分から拇指および他の指、特に示指の部分
・最小斜角筋:前腕の後面と手背
その他の検査対象筋
回旋筋腱板
前胸部と腕の全筋肉