
東洋医学2000年以上の歴史が、東洋医学の全盛の今でも残って、まだ見直されている漢方薬や鍼灸について解説していきます。
体全体の不調や半健康状態には漢方薬はよく効きます
ここまでは、ごく普通の現代医学の診断や治療を解説してきましたが、ここでがらっと見方を変えて、東洋医学からみた腰痛を考えてみましょう。
日本では、江戸時代にオランダ医学が伝わるまでは、庶民からお殿様に至るまで、漢方がごく当たり前の医学でした。
明治維新により、政治や文化と軍隊や化学など、あらゆるもの西洋から学ぼうという国家の方針で、ドイツ医学を正式な医学として採用することになりました。
これ以降を、漢方はマイナーな存在として、ごく少数の医師や薬剤師により受け継がれてきました。ところで現在、これだけ医学が発展していても、現代医学が苦手とする病気があると言わざるをえません。
科学の力で自然の神秘を分析し、病気や体を人間の思うがままに治療、改善しようする現代医学でも、いつのまにか壁にぶち当たることもあるのです。
ことに、「身体全体の不調」や「半健康状態」に対しては、今の医学は苦手なのです。そこで見直されてきたのが漢方薬や鍼灸です。東洋医学には、2000年以上の歴史があり、昔から今に至るまで試行錯誤…いわば数々の人体実験がなされ、効果的な薬や手技が未だに伝えられているのです。

東洋医学の漢方薬治療の特徴とは?
自覚症状に重きを置いて、病人の全体像をつかむのが、東洋医学の漢方薬治療の大きな特徴です。細菌の存在すら知らない、昔の時代に生まれた漢方医学は、現代医学のように病気を細かく見る術を持つはずがありません。
したがって、漢方治療では自覚症状に重きを置いて、医師の五感を用いた診察所見も参考にして病人の全体像をつかみ、その時の状態に合った薬を、経験的に有効と分かっている情報の中から選ぶのが特徴です。
生薬は「医食同源」の世界…「虚・実」、「陰・陽」などを重視します

漢方医学の特徴的な考え方で、体質・体型・病状など独特のものさしで診断します。
漢方医学では、患者さんの体質・体型・病状などを「陰・陽」「虚・実」「気・血・水」という独特のものさしで診断します。その際、腹筋の緊張や圧痛など、お腹の中の力を見るのも、漢方診療の特徴です。
◆「陰」は普段から顔色が蒼白く、冷え性で手足が寒がりと、体に熱が出ても熱感に乏しく、冷やすのを好まない状態を言います。
この反対が「陽」と言います。
◆「虚・実」とは、日頃の体力を、胃腸が弱いと疲れやすいなどを「虚」といい、その反対を「実」と言います。
また、気は生命活動の根源をなすエネルギーをいい、これが滞ると【気滞】という病的状態になります。
◆「血」は血液ですが、古くなると【瘀血(おけつ)】と呼ばれる様々な症状を引き起こすと考えます。
◆「水」という血液以外の体液に問題が生じると【水毒】という状態になります。

「医食同源」漢方薬治療の長所と短所とは?

化学合成薬より安全性は高いけれど、「医食同源」という言葉の通り、漢方薬では、もともと食べられるような天然の素材(食材)が、生薬としてそのまま用いられてることが多いのです。
なかにはトリカブトのような毒草のその毒の部分を消して薬の効果だけを引き出して、薬として用いているものもありますが、これも漢方の特徴でしょう。
とにかく、長きにわたる試行錯誤の結果、今の世にも残っている薬だからこそ、化学合成された現代医薬よりは安全性が高いのは確かです。
ただし、現代医薬が、病気の原因そのものに極めて攻撃的で強力であるのに対して、漢方薬は、病気を持つ人に対して優しい分、効果はゆっくりなスピードで、マイルドでな改善で、従って効果が出てくるのはやや遅いのが普通です。
ですから、急を要する病気には現代いや医学の方がはるかに優れています。
安全だからといって漢方治療にこだわると、かえって病気をこじらせることにもなりかねません。いままでの薬害の苦い経験から、ともすると西洋薬の欠点のみが強調されすぎて、漢方薬に大きな期待をかけすぎる向きもありますが、療法の医学の長所と限界をわきまえ、うまく使い分けるべきでしょう。
漢方薬でも副作用がないわけではありません。ある食べ物でじんましんが出る人などがいるように、漢方薬で食欲がなくなったりアレルギー症状を示す人ががいるのも事実です。
漢方で使われる腰痛の漢方薬の種類は?
2000年以上前の中国医学書にも色々腰痛の原因が書かれていてその点たくさんの腰痛用の漢方薬がありました。
漢方薬は慢性腰痛や坐骨神経痛には試す価値があります

2000年以上前に書かれた中国の医学書には、「腎の気が熱せられると腰の自由が効かなくなる」、「肝・脾・腎・胃・膀胱の病で腰痛が起こる」、「悪寒で腰痛が起こったり、関節の動きが、なめらかでなくなる」、「腎がきちんとしていれば腰は痛まない」いなどと書かれています。
腰痛に対して、たくさんの漢方薬があるところを見ても、昔から人々が腰痛に悩んでいたことがわかります。
ぎっくり腰などの急性腰痛には、強力な西洋医薬の鎮痛剤がより効果的でしょうが、いろいろな理由で西洋医薬が飲めない人や、西洋医薬でもすっきりしない慢性の腰痛や坐骨神経痛には、漢方薬を試す価値は大いにあります。
もちろん、例えば椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症、脊椎すべり症、脊椎分離症など腰痛の重度の症状になると、西洋医学に頼った手術的治療が必要で、漢方療法の限界を超えます。
腰痛に用いられる漢方薬とは?
個人の体質や症状で使用する薬は違ってきます。漢方では、先ほども述べたように独自の考え方に基づいて薬が決まります。
他人と同じ病名でも、漢方的に見れば個人個人の体質や症状も異なるので、用いる薬も違ってきます。
では、腰痛や坐骨神経痛に触れる漢方処方を簡単に説明していきます。

1:桂枝加朮附湯(けいしかじゅつぶとう)
体力がなく胃腸も弱い人向けの漢方薬。
2:疎経活血湯(そけいかっけっとう)
瘀血と 労働に効くので、腰痛・坐骨神経痛に試みる価値があります。
3:当帰四逆加呉茱萸生姜湯(トウキシギャクカゴシュユショウキョウトウ)
しもやけができやすい、手足がいつも冷たいなど、冷え性の体質の人に使います。
4:八味地黄(はちみじおうがん)・ 牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)
口が乾燥し、夜間トイレの回数が多い、全体としては冷え性、便秘の傾向だが、胃腸は丈夫といった、高齢者の腰から下の痛みによく用います。
5:五積散(ごしゃくさん)
上半身がほてり、下半身が冷える体質の中年女性の様子によく用いられます。
6:芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)
ぎっくり腰など急性筋肉性腰痛処方の漢方薬です。長期間飲む薬ではありません。
7:真武湯(しんぶとう)
下痢しやすい、体が揺れるなどと訴える腰痛の人に用います。
8:加味逍遥散(かみしょうさん)
背中が急にカーとなったかと思うと、すぐにゾクゾクっとするような、自律神経失調傾向があるような人向きの漢方薬です。
9:当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)
疲れやすい、めまいと立ちくらみ、肩こり、生理不順、生理痛などを、様々な不定愁訴(原因が定かでない、分からない)がある女性によく用いられます。
10:桃核承気湯(とうかくじょうきとう)
体力が充実した女性で、のぼせ、頭痛、めまい、月経不順、月経困難、便秘などがある場合に用いられます。
11:通導散(つうどうさん)
便秘のある腰痛に用いられます。
12:苓姜朮甘湯(りょうきょうじゅつかんとう)
腰が冷える、トイレに行く回数が多い、体がむくみやすいなどの症状がある腰痛に用います。
13:麻杏薏甘湯(まきょうよくかんとう)
例えば夏に冷房で冷えすぎて、それ以来、腰が痛い、などといった冷やしたために起こったと思われる腰痛に用います。
14:その他
消化器の具合が悪い人の腰痛に、小柴胡湯(しょうさいことう)や 柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)などが用いられることがあります。